なぜ紛争はなくならないのか。
どうすれば平和になるのか。
こんな疑問を持ったことはありませんか?
実は紛争問題は「教育」と深い関わりがあります。
この記事では「教育」と「紛争」の関係を5つの視点からわかりやすく解説していきます。
・紛争と教育の関係をわかりやすく知りたい
・平和のために教育が大切な理由を具体的に知りたい
・紛争が子どもに与える影響について知りたい
・紛争下の教育の状況を知りたい
・紛争下の子どもたちのために何かしたい
紛争下の子どもたちの教育はどのような被害を受けているのか?
教育が紛争にどのような影響を与えるのか?
平和のためになぜ教育が大切なのか?
この記事を読めばきっとその疑問に答えるヒントが見つかります。
紛争と教育の5つの関係
紛争と聞いて「教育」を連想する人は少ないかもしれません。
多くの人は銃や爆弾、民族対立や宗教などを連想するのではないでしょうか。
しかし実は、「紛争」と「教育」は強いつながりを持っています。
「紛争」は「教育」に影響を与え、「教育」もまた「紛争」に影響を与えています。
この関係を紐解き理解することは紛争を解決し平和を達成するために不可欠です。
この記事では「紛争」と「教育」の関係を5つの視点から紐解いていきます。
1. 紛争が教育に与える影響 [直接的]
まずは、紛争が教育にどんな影響を与えるのかをみていきましょう。
紛争が起こると教育は様々な形で被害を受けますが、そのうちの多くが物理的な直接攻撃によるものです。
具体的に教育はどのように攻撃されているのでしょうか?
ここでは主に紛争による直接攻撃3つを取り上げます。
学校の破壊
多くの学校は人が集まりやすい街中に建てられています。
そして現在の紛争の多くが街中で行われ市民を巻き込んだ形をとっています。
こうした状況下において街の中心的な学校は意図せず爆撃の被害にあったり、意図的に攻撃の標的になることがあります。
学校は教師と生徒が集まり安心して教育を受けるために重要な場所です。
この学校が破壊され使えなくなることは、紛争下の子どもから教育の機会を奪っていきます。
学校の占領
紛争下で学校が使えなくなる理由は、学校が破壊されることだけではありません。
街の中心にあり設備や強度が整った学校は、武装集団らの拠点になることも少なくありません。
武装集団らは占拠した学校を武器倉庫や基地拠点として利用します。
このように違法な学校占拠が起こることで、建物が残っていても学校を教育の場として利用することができなくなってしまいます。
教師への攻撃
教師は国家に仕え、政府が支給するカリキュラムを使い、国家の未来を支える子どもたちを教育します。
政府に不満を持つ反政府組織が紛争にかかわっている場合、こうした国家性を持つ教師は彼らの標的になることがあります。
また教師たちが文字の読み書きができ基本的知識を持っていることも攻撃の理由になります。
武装集団らにとってこうした教師の能力は、自分たちの意図しない情報を拡散する脅威となります。
こうした教師への攻撃により資格を持った教師が減少すると、学校はあっても子どもたちが質の良い教育が受けられないという状況に陥ります。
2. 紛争が教育に与える影響 [間接的]
紛争が教育を攻撃する方法は、上記のような直接的な攻撃だけではありません。
紛争により引き起こされる社会の変化が教育を攻撃することもあります。
ここではそんな紛争が教育を間接的に攻撃する3つの方法をみていきます。
教育の優先順位の降下
紛争がおきると、生活に必須ではない教育はどうしてもその優先順位を下げられてしまいます。
人々は毎日の生活や自分の身を守ることを優先し、教育に使われるお金や時間は減っていきます。
この現象は市民レベルだけではなく政府や国際援助団体レベルでも起こっています。
政府は紛争が起きると軍事予算を増やすためにほかの予算を削る必要が出てきます。
教育予算は命にかかわるものではないと判断され、このターゲットになりやすいのです。
また国際的な援助団体も、軍の派遣や、避難民キャンプ、食料や衣服などの緊急援助を優先するため、どうしても教育援助は後回しになってしまいます。
その結果、教師の給料の未払いや、机や椅子、教科書などの備品の整備が間に合わず学校のレベルが下がり、教育の質が悪化していきます。
カリキュラムの変更
紛争は、多くの場合2つ以上の意見が反する勢力の衝突によって起こります。
一方の勢力が力を持った場合、反対勢力を非難し自信らを持ち上げるような偏ったカリキュラムを作ることがあります。
日本でも戦後の教育現場において、教科書の一部が黒塗りされるなどの偏った教育が行われていました。
こうした権力によるカリキュラムの変更は子どもたちを混乱させるだけでなく、彼らの将来にまで影響を与え、子どもを育成するという本来の教育の目的を失わせることになってしまいます。
登校拒否の増加
現在の紛争はその多くが一般市民を巻き込んで発生しています。
軍や武装集団同士の攻撃だけでなく、市民をターゲットにした殺害、誘拐、性暴力などが頻発しており、残念ながらその被害者には多くの子どもも含まれています。
このように外出が安全ではなくなった紛争下では、子どもを家の外に出し学校へ行かせることをためらう人々が増える可能性があります。
両親が子どもを学校に行かせないだけでなく、子どもたち自身が外出に恐怖を感じ登校を拒否する場合もあります。
安全に学校にいけない社会的状況もまた子どもたちから教育の機会を奪っているのです。
3. 教育が紛争下の子どもを守る
ここまで、紛争下において教育が様々な角度から攻撃を受け、多くの子どもたちが教育を受ける機会を失っている状況を解説してきました。
しかしそもそも紛争下において教育は必要なのでしょうか?
紛争が落ち着き、社会が平和になってから教育を始めるのではいけないのでしょうか?
結論からいうと紛争下においてこそ教育は不可欠です!
ここからは紛争下においてなぜ教育を行う必要があるのか、その理由を詳しく解説していきます。
紛争中、子どもは特に弱い立場にあります。
緊張し続ける日常下で身内が殺されたストレスやトラウマを抱え、時には誘拐されたり、暴力を受けたり、命を奪われるケースも少なくありません。
教育は、こうした紛争下における様々な脅威から子どもを守るためにとても大切な役割を果たしています。
子どもの心を守る
学校は単に知識を勉強するためだけの場所ではありません。
同世代の友達と会い、話したり遊んだりして、安心感や楽しさを感じ、心を育てていく場所でもあります。
身近な人が殺されたトラウマ。
いつ攻撃されるかわからない不安。
避難先の新生活への不安。
日々様々なストレスを抱える紛争下の子どもたちにとって友達と会って話したり遊んだり、新しいことを勉強する学校という場所は紛争下において「普通」を感じられる貴重な場です。
紛争下で学校に通っていた子供は、学校に行けなかった子どもよりうつやPTSDの症状が軽減したというデータがあります。
紛争下の子どもにとって学校という場所は、日々緊張を強いられる紛争下において心を休め育てるために不可欠な場所なのです。
子どもの自己防衛力を高める
子どもたちは、武装集団にさらわれるリスク、自ら武装集団に参加するリスク、病気に感染するリスクなど紛争下において毎日様々なリスクにさらされています。
教育はこうした脆弱な子どもたちに正しい知識を教え、自己防衛方法を伝えるための重要な役割を果たします。
どのような場所でどのような方法で武装集団に誘拐されやすいのか。
武装集団とはどのようなものなのか。
どのような病気が流行っていてどうやって予防すればよいのか。
こうした正しい知識を適切に学ぶ教育の場は紛争下において特に脆弱な子どもが自らの命を守る力を身に着けるために重要です。
子どもの安全を守る
学校で経験することや学ぶことだけでなく、学校にいるということ自体が子どもを守ることにつながります。
紛争下では治安の悪化や攻撃意識の高まりなどから、子どもに対する武装集団の誘拐や、性暴力などのリスクが高まります。
学校はこうしたリスクから子どもたちを守ることができます。
学校という人の目が集まり集団で過ごす場所にいることでターゲットにされる可能性が下がります。
学校に行くという事実だけでも子どもたちを守ることができるのです。
4. 教育が紛争を悪化させる
ここまで紛争下の子どもを守るという視点から教育の重要性を解説してきました。
しかし教育は紛争下の子どもたちだけではなく社会全体のため、さらには紛争解決のために注視する必要があります。
紛争を解決し社会に平和をもたらすためには正しい教育を行うことが重要なのです。
ここからは教育が紛争解決のためになぜ重要なのかを解説していきます。
教育はポジティブな力だけではなく、社会全体にネガティブな影響を与え紛争を悪化させる力も持っています。
ではどのような教育が紛争を悪化させるのでしょうか?
重要なのは教育の「質」です。
詳しく解説していきます。
不公平な内容
学校を建て教師と生徒を集めたとしても、そこで教える内容が不公平なものだと紛争を悪化させる可能性があります。
例えば
○○は正義!やることはすべて正しい!
だけど△△は悪者!やることは間違っていている!
〇〇と△△には民族や土地、宗教や政治意識などが入るかもしれません。
このようなプロパガンダや偏見を広めるような教育が行われた場合、子どもやその親の差別意識や敵対意識を拡大させることになります。
さらに教師や学校が偏った姿勢を見せることで、学校内でのいじめや差別、暴力につながりかねません。
こうした偏った教育は対立意識を高め、紛争の悪化や長期化を招く可能性があります。
不平等な機会
教育を受けられる権利がすべての人に平等に与えられていない場合も、紛争の悪化につながる可能性があります。
例えば、○○族の人は学校に来ていいけど、△△族の人は来たらダメ。
学校に100万円払える人はいいけど、払えない人はダメ。
このように学校に行ける権利を不平等に与えることで社会の不満や格差が広がります。
こうした不平等な教育は社会間の敵対意識を増幅させ、新たな紛争の火種を作りかねません。
5. 教育が平和をもたらす
教育の「質」を軽視した場合上記のようなネガティブな影響を与えることがあります。
しかし一方で、教育は社会にポジティブな影響を与え、紛争を解決し平和をもたらす力も持っています。
ここからはどのような教育が平和の力を持っているのかを解説していきます。
紛争を悪化させる教育の問題がその「質」であったように、平和をもたらす教育も「質」に注目する必要があります。
ただ単に教育の場を設けるだけでなく、それを受けられる権利や内容に気を付ける必要があるのです。
では質が良い教育とはどのような教育でしょうか?
具体的にみていきましょう。
公平な内容
教育により平和を達成するためには、内容を公平にする必要があります。
公平な内容の教育というのは、カリキュラム作成者の意図や政府の思惑が介入しやすいため先進国でも達成されているとはいえず、容易なことではありません。
しかし過去の出来事や現在の社会情勢を可能な限り中立の立場で解説し、子どもたち自身に議論する機会を与える公平教育は、社会(特に紛争下の社会)に蔓延する差別意識や敵対意識の拡大を止め、未来の社会を担う次世代に負の偏見を引き継がないために大変重要です。
平等な機会
教育の機会を民族や地域、社会的地位等ににかかわらずすべての人に平等に提供することも平和の実現のためには重要です。
すべての人に平等に機会が与えられることで、社会の不満や敵対意識を和らげることができます。
また、異なる民族、宗教、社会的地位の人々が1つの学校でともに時間を過ごし相手を知ることで、偏見や差別をなくすことにつながります。
さらに平等な教育は、すべての子どもが自分の能力を知りそれを使える仕事を獲得する機会ことにもつながります。
それにより自信や収入向上につながり、将来的な格差や貧困スパイラルをも解決する可能性があります。
教育をすべての人に平等に提供することは、多くの紛争の原因である格差や差別、敵対意識による対立を和らげる可能性を持っているのです。
歴史を学ぶ
学校で中立な立場から歴史を学ぶことも平和のためには重要です。
過去に起こった紛争の原因やその被害などの歴史を学ぶことで、同じ過ちを繰り返さないよう意識することができます。
市民レベルのこうした意識が何世代にもわたって続いていくことで、新たな紛争の抑制につながる可能性があります。
平和を学ぶ
学校で平和を教えることは紛争解決や社会を平和に導くために不可欠です。
暴力ではない対話による問題解決方法
怒り感情の抑制の仕方
なぜ紛争が起きるのか
平和とは何か
上記は一例であり、平和教育の内容ややり方は土地や社会によって少しずつ異なります。
しかし平和を達成するためにはどのようなことが必要なのかを学び人々の平和意識を高めることは、紛争のない平和な社会を達成するために不可欠です。
まとめ
この記事では
紛争下において教育が物理的な攻撃や、紛争下における社会情勢から間接的にも攻撃を受けていることを解説しました。
また、子どもを守り社会を紛争から平和へ導くためにも、質の良い教育が不可欠であることも解説しました。
紛争下において早急な質の良い教育は大変重要です。
それにもかかわらず、現在紛争下で多くの子どもが教育の機会を奪われ続けています。
ユニセフによると約500万人の子どもがウクライナ紛争により教育の機会を奪われています。
また、アフリカのコンゴ民主共和国東部では約75万人の子どもの教育が中断されています。これは国全体ではなく、たった2つの州内での数字です。
教育は紛争下の子どもたちを守る重要な役割を持っています。
さらに教育は社会を紛争に導くか平和に導くかの重要な分岐点になります。
教育だけですべての紛争を解決することは難しいかもしれません。
しかし紛争解決を実現するとき、質の良い教育は必ず必要になります。
教育だけでは平和を達成できないかもしれませんが、平和を実現するためには質の良い教育は不可欠なのです。
私たちにできること
この記事を読み紛争下の教育支援に関心を持った方は
・紛争と教育の問題に取り組む活動への寄付
・ニュースや活動を広める
・さらに調べてみる(例:「紛争 教育」「紛争下の子ども」などで検索)
などの実際の行動に移してみてください。
教育支援は紛争地を対象とした援助の中でいまだ注目度が低いままです。
寄付をする際は、団体名だけではなく実際に行われているプログラムの内容にも注目して寄付先を選んでみてください。
紛争と教育の問題を取り上げた記事やニュース、援助活動を広めることで、この問題に気付き援助する人を増やすことができます。
以下に現在紛争下の教育問題に取り組んでいる団体をいくつかピックアップしました。
気になったページを見て、活動内容に賛同し余裕がある方はぜひ寄付やニュースの購読、自身のSNSで広めるなどの行動にうつしてみてください。
[紛争下の教育問題に取り組む活動(2023年5月時点)]
・シャンティ国際ボランティア会:https://sva.or.jp/
・JVC日本国際ボランティアセンター:https://www.ngo-jvc.net/activity/sudan.html
・KnKJapan国境なき子どもたち:https://knk.or.jp/news/world/jor/
・ワールドビジョン:https://www.worldvision.jp/children/crisis.html
さらに詳しく知りたい人へ
この記事を読んで「紛争と教育の問題」に興味を持った方はぜひ以下の記事や文献もご覧ください。(英語の記事はGoogle翻訳を使うことで日本語で読むことができます。)
・『紛争と教育-国際的な政策議論及び動向-』
https://www.jstage.jst.go.jp/article/jces/2017/55/2017_3/_pdf/-char/ja
・『紛争地における教育の調査結果:未来への平和の種をまくためには何よりも教育が必要との訴え(2014.05.14)』
https://www.savechildren.or.jp/scjcms/press.php?d=1534
・『Transformational power of education in post-conflict societies: Cases of Rwanda and Northern Uganda』
・『難民:教育支援のためにNGOが果たすべき役割』
https://www.mofa.go.jp/mofaj/gaiko/oda/files/000250676.pdf.
最後まで読んでいただきありがとうございました!
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