普段話すことのできない途上国に住んでいる方や現地で活動しているの方の声をお届けするインタビューシリーズ!
第2弾はケニアの教員養成校で教師として働きながらYoutubeやPodcastで情報発信を続ける現地出身のロバートさんです!
今回はインタビュー時間が2時間に及ぶほどいろいろなお話をしていただいたため、記事を前後編の2つに分けています。
前半は「ケニアの教育について」後半は「アフリカ人として先進国からの支援をどう思うか」がテーマになっています。
ケニアの教育の問題とは?教師として働く傍らなぜ彼は情報発信を続けるのか?困難を前にしてもなぜ続けられるのか?植民地化や先進国に対してどう思っているのか?
アフリカに行ったことがある方、これから行きたいという方、アフリカ関係なく仕事や進路で悩んでいる方、どんな方でも楽しめる内容になっています!
ぜひロバートさんのお話をご一読ください!
※本記事に載っている文章や写真は無断転送禁止です。引用等に使いたい場合は事前にご連絡ください。
Robert Omwa(37)
大学卒業ののち小学校、高校、大学で教師として働く。その後イギリスの大学院へ1年間留学。現在は先生を指導する職に就き、英語や現地語の授業の指導を行う。教師としての仕事とは別にYouTube、 Podcast、 ブログなども運営し日々自らの考えを世界に発信し続けている。
面積:日本の約1.5倍
人口:5,403万人(2022年時点)
民族:40以上
特徴:農業が盛んで自然動物にも恵まれる/ 大きな港を持ち東アフリカ経済の要となっている
歴史:1920年よりイギリスの植民地となりその後長い抵抗と独立運動を経て1963年に独立。
現在:盛んな農業や政府の政策により2015年には中所得国入りを果たすなど経済成長を続けている。2007年に選挙後の暴動により1000人以上が亡くなり治安や経済への影響が出るなどした。しかしそのほかに大きな武力紛争はなく比較的平和な国である。
- 情熱は利益とは比べられない
- 変えたいのはアフリカの体罰教育
- 若者より年配の人の方が柔軟に考えを変える
- 時々自分は正しいことをしているのかと考える
- 文明って?開発って?
- 私たちは今一度アフリカ文化を振り返る必要がある
情熱は利益とは比べられない
-これまでの経歴を教えてください。
大学卒業から現在まで教師として働いています。小学校、高校、大学といろんな場所で教えてきましたが、現在は教員養成校で若い先生に英語や現地語の指導方法を教える仕事をしています。
-なぜ教師になろうと思ったのですか?
正直に言うと元々教師を目指していたわけじゃないんです。はじめはジャーナリストになろうと思っていました。でも教師の方が苦労しないからと親に反対され、ジャーナリストは諦めました。
そんな理由で始めた教師ですが、先生相手に授業をするようになってからだんだんと好きになってきました。だから今はジャーナリストになりたいとは思っていません。それに教師をやりながらでもネットを使えば自分の思いを周りに伝えることができると気付いたんです。
-既に教師として収入は安定しているのにになぜ情報発信を続けるのですか?
やりたいという情熱はいくらお金を稼げるかとは比べられません。情報発信はお金の為ではなく私自身がやりたいと思っているから続けているんです。自分の考えや関心を人々に伝えることにとてもやりがいを感じています。
それに、私はやりたいという情熱を追っていればお金は後からついてくると信じています。実際にコンサルとして生徒に自分の考えを伝える仕事を行っていてますが、これが収入につながりつつあるんです。
変えたいのはアフリカの体罰教育
-そこまで情熱を持って伝えたいこととは何なのでしょうか?
私が目指しているのは学校を安全な場所にすることです。そのために自分の考えを伝える活動をしています。現在ケニアの学校では生徒を指導する方法として主に体罰が使われています。私はその体制を変え、子どもたちが恐怖を感じることなく学べるようにしたいんです。
-なぜ体罰指導を変えようと思ったのですか?
体罰以外に良い指導方法があると気付いたからです。私自身が学校にいたときに暴力や体罰を体験していましたし、教師になった後は私も同じように暴力を使って生徒を指導していました。こんな風に、ケニアでは体罰指導が普通になっていますが、ある日、暴力がなくても生徒をサポートできるということに気付いたんです。
-ロバートさん自身が体罰を怖いと感じていたこともきっかけなのですか?
いいえ、そうではありません。学生当時私は体罰を怖いともおかしいとも思っていませんでした。体罰が普通だったんです。でも大人になって、いろいろなことを学び過去を振り返った時に、待てよと思ったんです。
あれは普通ではなかったのではないか。自分がしてきたことは正しかったのか。本当に生徒のためになっていたのかと。そして状況を変えなければと考えるようになりました。
その渦中にいると気づくことは難しいですが、教育を受けて経験を積み、視野が広がることで違う可能性に気付くことができたんです。これが教育の意義だと思います。
-何かロバートさん自身の考えを変えるきっかけがあったのですか?
何か一つのきっかけがあったというよりは、徐々に考えが変わっていったように思います。教師として働き、子どもを指導する難しさを感じる中で、世界中の子どもが騒がしいし、いうことを聞かせるのは同じように難しい、なのに本当に体罰しかやり方はないのかと思うようになっていきました。
そんなある日、子どもの権利について学ぶ講演会に参加し、子どもにも権利があることを知りました。さらにそのあと国際法やケニアの法律を調べてみて、体罰が禁止されていることを知りました。もっと調べると、今は体罰を使っていない国でも昔は使っていたことを知りました。じゃあケニアでも体罰指導を変えられるのでは!と思ったんです。
法律が体罰を禁止しているなら、自分の中にも疑問があるなら、違うやり方があるなら、なぜそれを試さないのかと。このことに気付いてから、情報発信をしたり、若い先生を育てる立場として彼らにこのことを伝えるようになりました。
若者より年配の人の方が柔軟に考えを変える
-これまで体罰指導を変える活動を続けてきた成果はどうですか?
人の考えを変えるのは難しいです。時間がかかります。それを定着させるのにはもっと時間がかかります。でも、「人の考えを変えるのには時間がかかる」ということを知っているからこそ、忍耐強く活動を続けることができています。
もちろんこれまで接してきた先生の中には体罰以外方法がないと思い、考えを変えない人もいました。一方で考えを変えてくれる先生もいます。彼らは私と同じように体罰は指導効果がないのではという疑問をずっと持っていました。
そんな彼らに対し、私もかつては体罰以外方法はないと思っていた、でもその効果に疑問を持つようになり、そしてやり方を変えてみたらこんな結果になった、ということを伝えるようにしています。私の話を聞き、体罰をやめ、人間として心が軽くなったといってくれた人もいます。こうして考えを変えてくれた先生が少しでもいることが、やりがいにつながっています。
-日本では年配の方より若者の方が柔軟に考えを変えるとされているますが、考えを変えてくれた先生に共通点などはありますか?
そうなんですね。面白いことにケニアは逆です。年配の人の方が考えを柔軟に変えてくれて、若い人の方が考えを変えるのが難しいんです。もちろん全員とは言いません。でも若い人の多くが体罰以外に方法がないと思いこみ考えを変えてくれないんです。
これは、年齢が上の人の方が体罰には指導効果がないという「経験」を多くしているからだと思います。若い先生たちはこれまで自分がどう指導されてきたか、先生や親が自分にどう接していたかを覚えていています。そしてそれが間違っているはずない、正しかったと思っている。だからなかなか新しい方法を受け入れてくれないんだと思います。
さらに若い人は、指導に対して熱意をもっています。かつて先生が自分を指導してくれたように、今度は自分が生徒をきちんと指導しなければと思っているんです。その一方で、体罰指導では効果がなかったという経験が少ない。だから若い人の方が新しいやり方を受けいづらいんだと思います。しかし今は考えを変えない若い先生も、経験を積めばいつか考えを変える可能性はあると思います。
時々自分は正しいことをしているのかと考える
-学生から教師になったばかりの若い先生が体罰を受入れているということは、子どもも体罰を受入れているということですか?
そうです。子どもは先生に叩かれてしつけてもらうことを望んでいます。もし叩かなければ真面目な先生だと思ってもらえません。保護者もそうです。保護者は子どもをしつけてもらうために学校に子どもを連れてきています。そんな中もしあなたが体罰指導をしていなかったら、保護者はあなたのことを真剣に指導してくれない先生だと思うでしょう。
-子どもも先生も体罰を受入れているのに体罰指導を変える必要はあるのでしょうか?
うーん。難しい質問ですね。同じような話をイギリスで出会ったアフリカ人の友人たちと話し合ったことがあります。彼らは体罰指導に賛成していました。イギリスで一緒に学んでいる彼らは私と同じように体罰反対だと思っていたのでショックでした。彼らからは「アフリカ人にはアフリカ流のしつけが必要なんだよ。」「アフリカ魂はないのか?」と言われましたよ(笑)
だから時々自分は何をやっているんだろう。本当に正しいことをやっているのか。と思うことがあります。でも私は、体罰より有効で、先生にも生徒にもより良い指導方法があることを知っています。そしてそれが効果的だったという経験があります。この経験が活動を続ける自信になっています。
-生徒や先生は体罰以外に指導方法があることを知ればいつか考えを変えると思いますか?
はい。彼らはただ知らないだけだと思います。ハンマーしか持ってなければすべての問題は釘に見え、叩くしかないように見える。でももしほかの道具もあると知れば、少しずつ少しずつやり方を変えていくことはできるでしょう。
しかしケニアの法律は体罰に代わる指導方法を示してくれていません。だから私はいま、体罰に変わる指導方法を書いた先生たちをサポートするトレーニングマニュアルを作っています。
文明って?開発って?
-アフリカでは広く体罰指導が使われているとのことですが、これはアフリカの文化の一つなのでしょうか?
うーん。「文化」ではなく「文化になりつつある」だと思います。実は伝統的なアフリカ文化の中には体罰はなかったんです。植民地化の際西洋の教育システムが取り入れられ、その時体罰も一緒に入ってきました。
伝統的なアフリカの教育は西洋の教育とは全く違っていました。昔は大きな火を焚き、その周りに女性が集まり、若い女の子に色々なことを話し伝えていました。男の子は農業、鉱山業、狩りをする年上の人についていき彼らから色々なことを学んでいました。いろんな本を読みましたが、この時代の教育に暴力があったという記述はありませんでした。その当時教育は上下関係のある「しつけ」ではなくもっと友好的なものだったんです。
しかし植民地化により西洋文化が入ってきて、アフリカは遅れているからと私たちの文化を変えてしまいました。昔は大人も子どもも一緒になり火を囲み円状に座っていました。大人も子供も平等だったんです。ですが今は、大人が前に立ち子どもはそれに向かってきれいに整列しています。大人はすべてを知っていて、子どもはそんな大人より下の存在だからしつけをする。これが体罰教育を生んでいるんです。
植民地化が終わり独立した後もこの西洋の教育はアフリカに残ってしまいました。それが現在まで続き、アフリカの、ケニアの文化として定着しようとしているんです。
-もし植民地化がなければいま世界はもっと良くなっていたと思いますか?
はい。もし植民地化がなければ絶対もっと良い世界になっていたと思います。植民地化は現在まで多くの問題を残しています。例えば、今私はポジティブなしつけという講義をしていて、先生と生徒を円状に座らせ同じ目線で話をさせようとしています。でもこれは新しい方法ではなく私たちが元々やってたことなんです。
温暖化についてもそうです。アフリカの人々はかつては森で動物と一緒に住んでいました。動物をケージに入れたりもしていませんでした。鉱物資源を採取したり川を汚したりもしていません。私たちは川を使い、山や川は自分たちの一部だと考えているコミュニティもありましたました。山や森のおかげで雨が川に変わり、人々はその川から水を得ていたからです。アフリカと自然の関係はとても絡み合っていたんです。
-植民地化により現代の問題が作り出された側面があるということですね。
植民地化が始まり西洋の人たちがやってきて「地球から資源を摘出して使わなければならない」「自分たちの方がIQが高い」「だから正しいんだ」と言い出し、石油を抽出し全てを抽出し自然を汚染し始めました。なのにそれが今になって「自然を守ろう」「温暖化を止めよう」といい始めています。
文明とは何なんだろう。開発とは何なんだろうと思います。だって今私たちが新たにしようとしていることは、昔私たちが普通にやっていたことなんです。今やろうとしていることははただ昔に戻ろうとしているだけなんです。
私たちは今一度アフリカ文化を振り返る必要がある
-では今からテクノロジーや西洋文化を捨てて、昔のような森の中での生活に戻ることは可能だと思いますか?
うーん。それは簡単ではないと思います。なぜならいま世界はどんどん狭いコミュニティになっているからです。コロナも数日で中国からケニアまで到達しましたし、世界中が英語で話しています。これだけ世界が狭く、近く、境界線が薄くなっているいま、オリジナルのアフリカに戻るのは難しいでしょう。
でも昔の人たちが何をしていたか、何が効果的だったかを振り返り、現代に復活させる必要があるのかを考え、それを教育に取り入れていくことは可能だと思います。
例えば、私は教師として現在の教育システムに疑問を持っています。現在はすごく西洋的な内容になっていますが、50%ぐらいはアフリカ独自の知識、独自の薬、保存方法、良い文化などを教える内容にする必要があると思っています。
-過去を振り返り過去から学びアフリカ独自の良い文化を再び取り入れていこうということですね。
はい。ですが今はこうしたアフリカ独自の文化が西洋諸国のお金儲けのために使われてしまっています。例えばワカンダ(ブラックパンサー)という映画はアフリカを題材にしてハリウッドでヒットしましたがその利益はアメリカに入り、題材となったアフリカには少しも入ってきていません。
アフリカは今一度自分たちがどんな人間なのか、どんな特権があり、そのためにどんなテクノロジーが使えるのか、そしてそれを自分たち自身でどう広めていくのかを問いただす必要があるでしょう。
インタビュー前半はここまで!
ロバートさんのお話、いかがでしたか?
次回は
「先進国からの支援どう思う?」
「支援の悪い影響って?」
「先進国とどんな関係を望む?」
「国際協力目指す人へメッセージを」
など、アフリカと先進国の関係を中心にお話を聞いています!
お楽しみに!
ロバートさんの情報発信に興味がある方はぜひこちらもチェックしてみてください!
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